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学名:アンチノミウス ルサンチマン アンビバランサー 生態系:雨の日でもそうでない日でも傘で顔を隠して考え事

天邪鬼の雨宿り

   

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【小説】神仏魔習合はじめました。1

前半部です。続きは2に。

  今は昔、甘い香りのする虹色の尾羽を持った 鳥が空を飛び、
手を延べあう木々の間を金色の風が吹き抜け、
葉ずれの音がどんな生物の耳元をもくすぐる時代、
ホトケ様は悪の大王テンマを滅ぼすために永い 眠りに就き、テンマを封じた。
ホトケ様がお隠れになって、世界は悲しみにくれ、輝きは鈍く失われた。
だが、テンマは遠く、遠くの国へと体の一部を移して逃 れ、生き延びたという。
彼はいったいどこに今、いるのだろうか。
「それはあなたのお隣さんかもしれない、ってか?」
 何百年孤独に眠っていたのか、眠る前に最後に聞いたウワサをぼんやりと思って、
流れた日を数えながら、テンマはつぶやいた。
 誰かに呼ばれているのを感じてさっき目覚めたばかりだった。
今度はどんな人間をたぶらかしてやろうか、どんなやつがオレを必要としているのだろう?
と薄く笑って、テンマはとりあえず呼び出しに応え、意識を外へと向ける。
 向けた先には何があったか。
「………………」
 テンマが地面に降りたって、はじめは何者もいない様子に眉根を寄せ、
ふと足下を見ると―つやつやとした朱塗りの肌に、午後の柔らかな光が降って淡く輝いている。
反りあがった頭に間を空けて一本の棒、二本の足が揃って地に足をつけて
―鳥居がそこに立っていた。
 何も言えないテンマをどう思ったのか、鳥居はおどおどと口をきく。
「あの、えっと、助けてください!」
 テンマはそれでも何も言わなかった。
鳥居が動くとかしゃべるというのは聞いたことも見たことも初めてだったし、
ヒトでないものに頼みごとをされるのも初めてだった。テンマはじっと鳥居を見つめたまま黙りこくる。
  鳥居は少し泣きそうな声になって、更に
「ボク、あの、トリイなんですけど! カミ様とはぐれちゃって、困ってて、
どうしたらいいかわからなくて、だってボ クまだ何もできないし、シキガミ様呼ぶしかなくて、それで」
と、続けた。
テンマは何かめんどうそうなやつだ、と思ったが、それが顔に出たのか、
鳥居はとう とう話している途中から涙でしゃくりあげはじめ、さすがのテンマも、
大儀そうではあったが声をかける。
「つまり、何、おまえ迷子なのか。ふーん」
 テンマが口を開いて鳥居は安心したのか、涙を殺そうとしながらテンマを見上げる。
光を背にして見おろすテンマと鳥居の目が合う。
「ボク、ボクは、カミ様のところに、かえ、帰らないと、いけないっんです。
だから、シキガミ様、力を貸してくだ、ください」
 鳥居は苦しそうに、ひっくり返る言葉を懸命に繋ぎながらテンマにすがったが、
テンマはあっさりと、のれんに腕押し、無関心に「無理だ」と断った。
「いいか、オレはヒト助けが嫌いだ。誰かを助けるってのはイイ事だが、
オレはイイ事をするために生きてるわけじゃないからな」
でも、あなたはシキガミ様でしょう? と食い下がる鳥居。テンマは哀れむように笑う。
「おい、オレはお前の言うシキガミ様とやらじゃないんだよ。
なんだシキガミ様って。呼び出す相手を間違ったんだろ。オレはテンマだ、気の毒なことにな」
 悪の大王ってやつさ、とテンマは鳥居に凶悪な笑みを投げる。
しかし鳥居は名前を聞いても意に介さない。
不思議そうな鳥居に、白い歯を剥いて笑ったテンマも拍子抜けする気分になった。
しかし、怖がることのない鳥居に変わって、鳥居の後ろから険のある声が飛んでくる。
「テンマ…………ですって?」
 ふい、とテンマが鳥居を見下ろしていた視線を上に、
鳥居の背後に外すと、薄茶色のひからびたやぶがあった。
よく見ると、木の枝が不自然に絡み合い、ねこじゃらしや無名の草が生え固まって、
淘汰されようとしているほこらだった。
壊れ落ちた屋根や壁らしきものの奥に、ほこりと土や水で汚れた石の像が座っている。
 何よりテンマは聞き覚えのあるその声が不愉快だった。
「なんだァ、そのいけすかネー感じ。おまえ、ミロクか」
 テンマの足下でうろうろと、不穏を感じて、鳥居テンマに落ちつかなさげに口を挟む。
「その方は、オジゾウ様です。迷子のボクを助けてくださる方で」
「そう、テンマ、あなたのような良からぬものから迷えるものを救うのが私の役目です。去りなさい」
  鳥居の頼りない声を遮って、地蔵のミロクは、凛とした張りのある響きでテンマに言い放った。
やぶの奥からテンマを厭わしく感じているのが充分にわかる声色 だった。
一方で、テンマも顔にありありと嫌気をさす。
鳥居は前後で交わされるやり取りが唐突に不毛で、また泣きそうになるが、
こらえてテンマまで少し歩み 寄って言う。
「シキガミ様……オジゾウ様に草木が絡まって困っているんです。
どうかお地蔵様の本来の力が出せるように、取りはらってください。
そうすればボクはカミ様の元へ帰れるはずなんです」
「うるさいやつだな、オレはテンマだって言ってるだろ」
「そうです、彼はこの世の悪を司る存在。おやめなさい、小さな鳥居よ。
願いを叶えるにしても、あなたを汚さずに叶えてくれるようなものではないのです。
信じてはなりません」
 テンマはいらいらと否定し、ミロクは厳しく鳥居に注意する。
鳥居は何も言えなくなってうつむく。
ミロクの言い方が癇に障ったテンマはお構いなしで声を荒げる。
「いいか、オレは勝手に呼び出されたんだ。オレは何もしてないだろうが」
「どうだか。神の守護たる鳥居を騙して操って、ことを起こすぐらい君ならやりかねないでしょう」
「阿呆、そんならお前なんぞを巻き込むか、面倒な」
「むしろ、私のことも我が師のように騙して滅ぼそうとやってきたのでしょう。
以前のように改心するふりをして、我が師と同じように私を」
 す、と。
  ミロクの言葉を最後まで聞かず、テンマは姿を消した。
なんと続くかテンマにはわかっていた。眠る前にも散々言われたことだった。
言葉が耳に入るたびに、屈 辱と悲哀と、一抹の後悔で満たされるのをテンマは知っている。
今にも自分が小さな欠片になって崩れるような錯覚を覚えて、テンマは自分の脆さを憎んだ。
ぎ りりと歯ぎしりの音が、元の、誰もいない空間に響いた。

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雨上 そら
年齢:
690
性別:
非公開
誕生日:
1333/08/19
職業:
全体的にものかき。
趣味:
人類は数年で滅ぶと呟くこと。

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