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学名:アンチノミウス ルサンチマン アンビバランサー 生態系:雨の日でもそうでない日でも傘で顔を隠して考え事

天邪鬼の雨宿り

   

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【小説】神仏魔習合はじめました。2

後半です。あとがきも含んでいます。

 昔、テンマは欲望の支配者であり、生きとし生けるものを堕落に導くことが楽しかった。
ミロクの師であり、テンマとは正反対の存在であったホトケを、当然堕落させようともした。
 けれど、とテンマは遠くを思った。テンマは再び地に足を着けて姿を現していた。
自分の痛ましい感情だけが空間に膨らんでいくようで、耐えきれずさまよっている最中なのだ。
見知らぬ場所をふらふらと歩き、無意識に止まり、立ち尽くして記憶の海に潜る。
  はじめは、ホトケが気に入らなくて。
でもムキになればなるほどあいつの説教はオレの頭に入り込んできて。
あいつが死ぬとき、さびしささえ感じて。ミロクな んかに見つかると騒ぐから、
こっそり言ってやったんだ、あいつに、オレは改心してやるから、
お前の弟子の世話も見てやるから、死ぬな、だなんて。
  午後の柔らかい日は落ち、白くおぼろげな月が雲間に光と陰を落としている。
テンマは固い黒々とした地面からホトケノザを抜いた。深い肉厚の緑に赤い点々の つぼみ。
石の棺桶で包まれた土から、テンマが抜き、触れているとぱっと花開き、かすかに香る。
こんなことは、ホトケの教えを受けてから、テンマができるよ うになったことだった。
しかし、握り続けるだけで、その小さくも強い生き物は、しなびて生を終えていく。
……ホトケと同じだ、とテンマは唇を噛んだ。オレ を死を与えるものにしやがって。
オレはお前が死んだのがショックで、おとなしくしていただけなのに、
姿を現す度に気付けば、オレがお前を殺し生き残ったん だとウワサされて。
 テンマがホトケノザを地面に叩きつけると、同時に、がさりと足下の雑草が揺れた。
揺れの大きさに違和感を感じて見下ろすと、小さな鳥居がくたびれてそこにいる。
「お前、なにやってんだ」
「なに、って、シキガミ様……テンマ、さん? を、追いかけて、きたんです」
 きつい声で尋ねるテンマに、鳥居は息をきれぎれに、簡単に言ってのける。
「ボク、あなたがどこに行っても、わかるんです。それだけ、できるんです。
でも、こんなに時間がかかって」
「はん、お前も阿呆なやつだなァ。何を真剣になってんだ、オレはお前なんか助ける気ない。
あきらめろよ」
 気分のくさしていたテンマは、腹いせに鳥居に意地悪を言った。
鳥居は少し黙った。月の光が朱色の体をてらてらと浮かび上がらせている。
「やっぱり、あきらめたほうが、いいんですか、ボク」
 てっきり鳥居は泣きはじめるだろうと思っていたテンマは、
返ってきた細い言葉に不意をつかれて片眉を持ち上げた。
鳥居は、しょんぼりとしている。
「ボク、実は、記憶がないんです。カミ様の……戻るべき場所の記憶がないんです。
だから、だからボクって、ひょっとして、いらない鳥居で、シキガミ様、
いえ、テンマさんに助けてもらっても、オジゾウ様に助けてもらっても、
結局必要ないのかな、とも思ってて」
 鳥居は視線を落としながら、消え入りそうにつぶやく。
  テンマは、何を言っていいかわからなかった。
鳥居の言葉を聞いて、急に妙な気分になったからだった。
同情や嘲笑でなし、胸が締め付けられて、胃がほのかに 暖まっていくような―気づけば、
鳥居をひろいあげ、テンマは無我夢中でミロクのほこらまで走った。
間の抜けたような閃きがテンマにあった、それをやらずに はいられなかった。
傾く月を背に、時間は矢のように飛んで、ほこらにやってきたテンマを見て、
はじめミロクは、木の枝越しに不信な態度を露わにした。
「なんです、夜中に。鳥居まで一緒ではありませんか」
「おい……お前に絡んでるその木をオレがどけてやる」
 テンマの手の中で揺られて目を回している鳥居を不器用に地面におろしてやると、
テンマは困惑しているミロクに有無をいわさず、木々の枝の固まりに手を伸ばす。
「何を……枝を折るなら結構ですよ!」
「絶対折らない。殺さない」
 テンマの言葉に、ミロクは動揺したようだった。
お構いなしに、テンマは加減ができるよう、命の伸び具合を頭に思う。
枯らすわけにはいかない、この木は『望み』なんだ、とテンマは必死だった。
ミロクは、気おされて、聞き取れるか取れないかぐらいの声でぼそりと言う。
「私は、人々に忘れられたので、地蔵としての力はほとんどないのです。
無理だ。後生ですから、お構いなく」
 ぐったりするミロクを、テンマは一瞥し、なんだ、お前もかよ、と口を動かした。
テンマはミロクを枝越しに見て、すぅっと息を吸い込んだ。
「オレがほこらぐらい、直してやるよ」
 そして、命の栄華を木の枝に握り込んで、それは深い闇を割るように。
乾いた木の枝はねじれをほどきながら、緑の芽を出し、
つるを優雅に張ってうぶ毛に包まれたつぼみをつけ―。
 テンマは、手を離した。
 鳥居は下がる藤色の花房に包まれ、ミロクは欠けた供え物の茶碗の水鏡で、
ほこらの天井の藤色をまぶしく見、テンマは満足げに笑って。
 これが世にも奇妙な、神仏魔習合のはじまりはじまり。





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夢束ML第24回SSE投稿作品でした。
こちらは学校でも発表しました。
というかSSE兼学校発表用に書いたものなので、
ワード二段組25文字×17行A4サイズ(余白:上25 下28 左右23)でファイル作って
コピペしていただくと、あら不思議、学校指定上限枚数6枚に
かーなーり、ギリギリに収まっているのがおわかりになるという不思議なモノ。
……不思議でもなんでもなくて、無理をした結果がコレなんですが。
かなり縮めました。というか、少ない枚数で自分の書きたいことを
どれぐらい書けるのか、思いきってトんでしまったんです。
ラスト、3人(?)がゴチャゴチャ会話してたんですが、むしろスッキリした
現エンドも悪くないかな、と思ってます。
すっきりしたことを考えると枚数制限も悪くないかもしれません。

もっとドタバタ系だったんですが、掛け合いをするとページ数くいますし
書きたかったのはテンマの葛藤というか複雑な気持ちに対しての救い(のきっかけ)だったので
あえてほのぼのシーンやテンマの辛辣なからかい言葉とかミロクの優しさとか
大幅に削ることになりました。

仏教を少しかじった、仏教系学校の方なら知ってるエピソードを題材にしたんですが
一般には……地蔵=弥勒菩薩ぐらいですかね、認知度高そうなのって。
釈尊を富や名声や女性で誘惑しまくってた天魔(マーラ)が、
釈尊の死の間際に弟子助けてやる云々言った逸話は本当にあって
で、それを釈尊に断られたのも本当です。
天魔がなんでそんなことを言うのかをストーリー的に想像したり
仏教ではあの逸話にはどういう寓意があるのかとか、そこは深く考えてないのですが
いろいろ考えてわかったらまた書きたいなあと思ったり。
でも悪の大王やめようとまで思ったのに断られたら、傷ついてるはずなんですよね。
天魔に人のような感情があるのなら。
しかも絶対悪魔仲間にも自分の部下(配下?)にも釈尊の弟子にも
「なにおまえキモッ」みたいなこと言われてるか、気まずくて無視されてるか。
居場所がなさそうだなあ、と。

あとは神仏習合という言葉、それから小さい鳥居ってステキだよなあ、という気持ちから
こんな話ができました。
お地蔵さんも、地域で守ってる場所にいられたら幸せですけど、
忘れられているお地蔵さんというのも見たことがあります。
それでも人を見守る存在である神様、何も知らない神様、人間(?)不信な神様、
やっぱりまたいろいろ書いてみたいです。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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雨上 そら
年齢:
690
性別:
非公開
誕生日:
1333/08/19
職業:
全体的にものかき。
趣味:
人類は数年で滅ぶと呟くこと。

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